SAKURA PRESS

ミリペンの太さと使い分け、プロの漫画家も愛用するミリペン(ピグマ)とは?

2021.10.15

特集

漫画を描くのに使用するという方も多いミリペン。ペン先の太さのバリエーションが豊富にあるため、さまざまな線が書き分けられる一方で、豊富すぎてどの太さを使えばいいのか迷う…という声も耳にします。そこで、普段からミリペンを愛用されている漫画家の木崎アオコ先生に、太さの使い分けや上手に使いこなすコツなどをインタビュー。自分にフィットする漫画制作用の道具を模索している方、必見です!

漫画家 木崎アオコ
「週刊少年ジャンプ」から「ONE SHOT KILLER」で漫画家デビュー。
正反対な夫婦の日常を描くコミックエッセイ「私のおっとり旦那」が注目を集めており、Twitter、pixivコミックでの総閲覧数は1億を突破。

そもそも「ミリペン」とは?

ミリペンは、その名称の通りミリ単位の線幅が描けるペンで、主に漫画やイラスト、製図などに使われるサインペンの一種です。ミリペンの他に、ドローイングペン、イラストペン、グラフィックペン、製図ペンなどと呼ばれることもあります。各メーカーからさまざまなミリペンが販売されており、ペン先の太さ、インキの種類やカラー、書き心地、価格など多種多様です。

つけペン(Gペンや丸ペン)との違いは?

つけペンは、ペン先にインクをつけながら使用するペンです。漫画制作にもよく使用され、その代表格がGペンや丸ペンです。つけペンが「書く時にインキをつける」のに対し、ミリペンは「書く前からインキが内蔵」されており、この点が大きな違いです。また、つけペンは1本でさまざまな太さの線を描き分けることができますが、慣れや技術が必要です。ミリペンは基本的に線の太さが一定なので、1本で太さを描き分けるのは困難ですが、技術は必要なく初心者にも扱いやすいと言えます。

木崎アオコ先生コメント
私も以前はGペンを使っていました。ですが、描く時の筆圧が影響してか、ドケルバン腱鞘炎になってしまって。Gペンは、ペンの入りが細くシャープで、抜きも細く伸びるのが魅力なのですが、手指への負担を考慮すると使い続けるのが厳しく、弱い筆圧でも描けるミリペンに移行しました。今では腱鞘炎の症状も落ち着いています。

万年筆との違いは?

万年筆はもともと文字を描くための筆記具ですが、漫画などの描画に使うケースもあります。ペン軸にインキが内蔵されており、紙にペン先をつけるとそのインキが出てきます。万年筆もミリペンも、構造上の仕組みは同じです。ただし万年筆は、筆圧やペン先の角度を変えることで、まるで「筆」のように線の太さを変えることができ、その点はミリペンと大きく違います。また、ミリペンはインキが無くなったら使い終わりになりますが、万年筆はインキを充填すれば繰り返し使えます。

木崎アオコ先生コメント
カートリッジ式のインキをセットする簡易的な万年筆なら使ったことがあるのですが、本格的な万年筆は使ったことがありません。自分の中で「高級な品物」「贈り物」というイメージが強いせいかも知れませんが、漫画を描く道具として使うには、価格の面で現実的でないかなぁ…という印象です。

ミリペン、つけペン、万年筆の特徴をまとめると…

どのペンにも長所短所があり、使う人の好みもあるため、優劣をつけることはできませんが、それぞれの特徴を一覧表にまとめてみました。自分にはどのペンが合っているか、選ぶ際の参考にしてみてください。

  用途 価格 線の特徴 インキ メンテナンス
ミリペン 描画、製図 安い 筆圧に左右されず均一な線が描ける ペン軸に内蔵
減ったら使い終わり
特になし
つけペン 描画 安い 筆圧などの調整で強弱のある線が描ける ペン先につける
減ったら再度つける
洗浄や乾燥が必要
万年筆 筆記、描画 高い 筆圧などの調整で強弱のある線が描ける ペン軸に内蔵
減ったら充填する
洗浄や乾燥が必要

漫画制作に見る、太さ別のミリペン使い

木崎アオコ先生が普段、漫画制作に使っているミリペンは、ピグマの「005」と「003」とのこと。また、ミリペンではないものの「ファイン」や「ブラッシュ」もよく使われているそうです。太さの異なるミリペンをどう使い分けているのか、実際に描かれた漫画をもとに解説していただきました!

愛用歴5年、ピグマファンならではの目線でそれぞれの太さの良さや使い方のコツをお伝えしようと思います!

木崎アオコ先生流! 太さ「005」はこう使う!

主線に使うものの1つが、太さ「005」のピグマです。もし、どれか1本だけで描きなさいと言われたら、迷わず「005」を選びます。それくらい使い勝手のいいペンです。私の場合、漫画の原稿用紙は一般的なケント紙ではなく、カラーコピー用紙なのですが、紙との相性も抜群です。ミリペン特有の「インク溜まり」や「かすれ」がいい感じに出た時は、にんまりしてしまいますね。

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

太さ「005」のみで描いたシーン。線を重ねたり、筆圧を変えることで太さに強弱をつけている。

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

竜のカケアミに「005」を使用。主線だけでなく、カケアミにも使える万能さがある。

太さ「005」のピグマは、使い始める前にペン先を柔らかくするのが私なりのこだわりです。ペン先を紙に押しつけるように、やや圧力をかけて何度か線を描くと、柔軟性が出てなめらかな書き味になるんです。線の太さが均一と言われるミリペンですが、こうしておくと太さに強弱もつけられます。他にも、「005」で強弱をつける手法としては、線を重ねて表現する方法もありますね。これは私もよくやる手法の1つです。

木崎アオコ先生流! 太さ「003」はこう使う!

太さ「003」は極細なのに色がくっきり濃くて、繊細な顔の表情を描いたり、細部に加筆する時は、これがないと!という存在です。分かりやすく細いので、使うと線画にメリハリが出て、アナログらしさが際立つ絵が描けると思います。ただ細いぶん、ペン先1点に力が集中してしまうので、修正液が乾ききっていない状態で上から描いてしまうと、修正箇所が削れるので要注意です。

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

太さ「003」を多用して描いたシーン。蛸の模様、人魚の鱗や髪の毛など、緻密で繊細な表現に使用している。

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

顔や肩の斜線に「003」を使用。極細の線が描けるので絵にメリハリがつく。

「003」はピグマの中でいちばん細く、書き味は硬いのですが、その持ち味を活かして描くのが正解だと思っています。「005」のように、自分流のカスタマイズも一切しません。その代わり、スキャナーの選び方がポイントになってきます。CCDスキャナーでないと、「003」の線の太さはスキャンした際にもれなく飛んでしまうからです。当然カスレも飛んでしまうので、自宅でスキャンを行うミリペン使用の作家さんは、CCDスキャナーが必須かと思います。

木崎アオコ先生流! 「ファイン」と「ブラッシュ」はこう使う!

ミリペンではないですが、ピグマシリーズでは「ファイン」と「ブラッシュ」も頻繁に使います。「ファイン」は「005」と同様、主線を描く時に、「ブラッシュ」はベタを塗る時に活躍します。

寄りの絵だと、顔パーツ以外はほぼ全て「ファイン」を使います。Gペンのような強弱がつけやすく、1本で線の太さを調整できる点が魅力です。ペン先がしなやかで潰れにくく、抜きもきれいなので、太めのカケアミも上手く描けます。私はカケアミを多用するタイプなので、この特徴は有難いです。

「ブラッシュ」は、面積の広いベタも早くキレイに塗れる点が気に入っています。筆ペンで塗る方も多いと思いますが、筆ペンに苦手意識がある場合は「ブラッシュ」を試してみてください。かく言う私も筆ペンが苦手な一人なのですが、コントロールが断然しやすいのでおすすめです!

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

「ファイン」を多用して描いたシーン。1本でバリエーション豊かな線が描ける。

ジャンプ+掲載読切『OLDMAN』より

手袋のベタとカケアミの境界は「ブラッシュ」で線を引いている。

「ファイン」を使うまでは、ピグマ「01」「02」「03」を使い分けて描いていたので、「ファイン」を導入してからは、ものすごく時短化が図れました。できればエッセイ2冊を出す前に出会いたかった(泣!)ミリペン使用の作家さんで、もっと作業効率を上げたい!という方には、かなり役立つ1本だと思います。

「ブラッシュ」は、ベタからのカケアミを描く際にも便利で、私の場合、まずベタとカケアミの境界になる部分に「ブラッシュ」で太めに線を引き、それからカケアミを描いていくという方法を用います。こうすると、境界の部分がきれいなグラデーションになり、仕上がりがすごく自然なので試す価値アリだと思います。

木崎アオコ先生流! 太さ別にピグマの用途をまとめると…

あくまで木崎アオコ先生の場合は…という例になりますが、ピグマの太さ別に漫画制作時の用途をまとめてみると、以下のようになります。どの太さを使おうか迷っている方は、ぜひ参考にしてみてください。

  漫画制作時の用途
「005」 主線、カケアミ
「003」 顔や髪などの緻密なパーツ、細部の加筆、細いカケアミ
「08」 枠線(※)
「ファイン」 主線、太めのカケアミ
「ブラッシュ」 ベタ、ベタとカケアミの境界線

※枠線の用途については、後述しています。

サクラクレパスのミリペン「ピグマ」をもっと詳しくご紹介

今回、インタビュー取材にご協力いただいた木崎アオコ先生をはじめ、プロの漫画家さんにも愛用者の多い「ピグマ」。実は、水性顔料サインペンとしては、サクラクレパスが世界で初めて開発したものなのです。日本だけなく、海外でも「PIGMA MICRON」という商品名で販売されており、漫画やイラスト制作をはじめ、スケッチ、パターンアート、水彩画の下絵、製図、履歴書などの重要書類まで、幅広い用途で使用できることから、根強い人気を誇っています。

ここでは、その人気の秘密にクローズアップ。ピグマの持つ特徴がどんな場面で重宝しているのか、実際の利用者でもある木崎アオコ先生にもコメントをいただきました!

【人気の秘密#01】 豊富な線幅バリエーション

ピグマのペン先の太さは、「003」から「3」まで11種類あります。ミリペンではないものの、同じピグマシリーズの「ファイン」と「ブラッシュ」を加えると全部で13種類のバリエーションを展開しており、描きたいもの、表現したいイメージに合わせて好みの太さが選べるようになっています。

木崎アオコ先生コメント
スタメンの「005」「003」「ファイン」「ブラッシュ」以外にも、手元には「01」「02」「03」「08」があります。「01」~「03」は「ファイン」で代用できるようになったので今はほとんど出番がありませんが、「08」は枠線を描くのに使うので、無くてはならない1本です。ピグマはインキの持ちが良いので、そうそう困ることはないのですが、どれも最低10本はストックしています!

【人気の秘密#02】 優れた耐水性と耐光性

ピグマに採用されているのは、水性顔料インキです。水性でありながら、耐水性・耐光性にも優れています。そのため、水彩画の下書きや重要書類への記入など、にじみが生じると困るシーンや用途に適しています。また、直射日光が当たっても色あせしにくいため、展示を目的とした作品制作にも向いています。

木崎アオコ先生コメント
耐水性はもちろんなのですが、ピグマはアルコールや消しゴムへの耐性も高いと思います。私は着色の際、アルコールマーカーを使うのですが、ピグマは線のにじみが気になりません。この点は他社のミリペンもたくさん試しましたが、私はピグマが優れていると感じました。また、下書きなどの消しゴムかけにも強いです。消しゴムで線が薄くなるのは、漫画制作の「あるある」だと思いますが、ピグマだと主線が消えにくいので助かります。

OLDMAN-木崎アオコ|少年ジャンプ+

コラムに掲載の漫画はコチラから読んでいただけます!

漫画家 木崎アオコさんプロフィール
「週刊少年ジャンプ」から「ONE SHOT KILLER」で漫画家デビュー。
その後、「ジャンプSQ」「月刊少年ガンガン」「少年ジャンプ+」などで8つの読切作品が掲載される。
正反対な夫婦の日常を描くコミックエッセイ「私のおっとり旦那」が注目を集めており、Twitter、pixivコミックでの総閲覧数は1億を突破。
代表作
グラスフィート全3巻(完)、私のおっとり旦那①②
受賞歴
  • 2011 『ONE SHOT KILLER』ジャンプトレジャー新人賞で佳作受賞
  • 2014 『オズの魔宝使い』少年ガンガン漫画大賞受賞
  • 2014 『ISSEN』ジャンプSQ読み切り黄金杯優勝