SAKURA PRESS

「コラム」クレパス700色・色名の法則

2022.04.22

特集

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サクラクレパスが700色のクレパスを最初に作ったのは、1991年(平成3)に創業70周年を記念するためでした。美しい色にこだわりつづける画材メーカーの威信にかけて、日本生まれの洋画材料としては唯一のものである描画材料クレパスを開発した会社として、クレパスで世界最多色を作りだしたのです。これは市販品ではなく、見本市用の展示資料として作られたものです。

その後、2011年(平成23)の創業90周年では世界最多色の記録を更新しようと、900色のクレパス作りが計画されました。最終的に900色のために作った色は2,100色になりました。この数の色になったのは、色の変化を段階的に推移(グラデーション)する幅を均一にさせて、変化が滑らかになるよう調整するためでした。2,100色から選別された900色のグラデーションを並べてみると、色の差異がほとんど感じられない部分が多々ありました。そこで、色に対する感覚が標準的な人が見て、隣り合った色どうしの差異が感じられるであろうという範囲に設定して選別をし直しました。その結果、700色程度が判別できる限界であることが分かりました。そこで、同じ色数であっても前回より進化したものにしようと、世界最上の美しいグラデーションの700色を目指しました。前回は濃淡を白と灰色の配合比で変化を出していきましたが、たとえば黄色を濃くするために灰色を混ぜると彩度の低いくすんだ緑色になります。しかし、一般的には黄色を濃くすると黄土色から茶色系になるというイメージがあります。こうしたイメージを優先させて、美しい色だけを選りすぐった700色が揃いました。新しい700色クレパスには、特別色として金・銀・銅に加え、メタリックカラー25色が配色されました。この新700色は翌年の2012年(平成24)から限定販売されました。

全700色には色名がついています。そこで、色名はどのようにしてつけられるものなのか、色名のつけかたの法則を紹介します。

色名の考えかた

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「色名は人間生活とのかかわりの中で、動植物や天然現象など身近なものに着目し、それから感受したものをたいせつにして生活の中で創造されたものといえる。

それは、その色を指定するのに最もふさわしい呼称であること、そして生活の中で生かされるもの、いいかえれば色名そのものが美しく、呼びやすく、親しみやすく、覚えやすいという条件をそなえていた。

つまり色名は、単にその色を指定するための呼称ということではなく、その時どきの人びとの息吹を察知する手がかりともいえるのである。」は、 日本色彩教育研究学会の江幡潤氏が著した『色名の由来』からの一文です。色名は、それがどのような色であるかを想像させるような名前であり、その想像は多くの人たちの認識が合致するようでなければならないのです。

固有色名と慣用色名

「日本の色名には、草木染めの伝統から、その材料とした植物の名からきた色名が多く、また岩絵具などの顔料からきた色名もある。無機顔料や有機合成化学によって作られる今日の色料には、その成分を表わす名がつけられているものがあるが、それらは色名というよりは成分名であるから、一般の人はその名を聞いても色が想像できにくい。

それに対して、植物、動物、鉱物の状態色や自然現象の色からきた色名や生活の中の人工物の名からきた色名が多く用いられるのは、それらが多くの人の目に親しまれていて、その名から色が想像しやすいからである。

また人物名や地名や抽象的な名をつけた色名もある。これらの色名はいろいろなものの名を借り、またいろいろなことばを用いて、その連想によって色のイメージを伝えようとするもので、それらが人々の間で慣用されているうちに、あたかもその色の固有の名であるかのように、色と色名が密着してきているものを固有色名という。」(財団法人日本色彩研究所監修『色名小事典』)

こうした固有色名の中でも、特に日常的に使われて一般に広く知れ渡っているものを慣用色名と呼びます。

系統色名

色名には、さらに「系統色名」というのがあります。系統色名は、数少ない基本的色名を基にして数多くの呼び方ができるように、システマチックに組み立てられた色名です。

「色は主観的に受け取られやすいものなので、色単独では感覚的情報内容を的確に伝えにくいが、色が造形と結びついたり、色がことばと結びついたりするとき、その情報内容はある程度限定されてくるので、情報伝達の機能をもつようになる。つまり視覚言語となり得る。色名は情報の伝達機能上からいって二つの主な役割をもっていると考えられる。ひとつは色の分類指示ということ、他のひとつは色のイメージ内容を伝えるということである。

色名の組立て

各種の色名をその組立ての上からみると、多くは次のような語形になっている。

1、トーンの形容詞色相の形容詞+2、イメージ連想語+3、基本的色名

例えば、ブライト・ピーコック・グリーン、ディープ・アマランス・パープルの色名で、後段の(3)にあたるグリーンやパープルの語は基本的色名であり、前段の(1)にあたるブライトやディープの語はトーンの形容詞であり、中段の(2)にあたる語は色のイメージを引き出す連想語ということができる。これら(1)(2)(3)の語が組み合わされ各種の色名ができている。

(3)の基本的色名と(1)の形容詞との組合せからなっている色名、例えばブライト・グリーン、ディープ・パープル、あるいはブライト・ブルーイッシュ・グリーンという色名が系統色名であり、これらは(2)のイメージ連想語がぬけたかたちになっていて、それだけに無味乾燥な名となっているけれども、色の分類指示という点では、これらの名は色の系統を確実にさし示すことができて有効である。

(2)のイメージ連想語が主となる色名が固有色名である。例えばルビー、アプリコット、青磁色など(2)の語だけでそのまま色名となっているものもあるし、(1)+(2)のかたちでライト・アプリコット、さび青磁色などと呼ぶこともある。(2)+(3)の語形をなしているものもある。ピーコックとだけいっても孔雀の羽根はいろいろな色を呈するからグリーンとかブルーをつけないとわからないという場合に(2)+(3)のかたちをとる。

さらに(1)+(2)+(3)のかたちをとるものもある。アマランスは伝説の中の仮想の花で、一年中枯れることのない赤紫の花をいうが、その語だけではどのような色かわからないので、トーンの形容と基本的色名とを組み合わせているわけである。」(財団法人日本色彩研究所監修『色名小事典』)

クレパス700色名

最初のクレパス700色は、かつてあったヌーベルアーチストクレパス153色を基本にして、白色と灰色の濃淡になる4段階のトーンを加えて色数を増やしています。

このような方法で増色しているため、白の分量を少なく加えた色は明度が高いのでライト(明るい)の修飾語を付し、白色を多く加えた色は彩度が低くなるのでソフト(柔らかい)を付し、灰色が少なく加えた色はグレイッシュ(灰みの)を付し、灰色を多く加えた色はダークグレイッシュ(暗い灰みの)を付しました。

なんとも無味乾燥な色名となっていますが、クレパス誕生から今日まで80余年、常に時代のニーズと科学技術の進歩とともに改良を続けてきた歴史を色名にも残した結果です。

ちなみに、この最初の700色が1991年(平成3)に作られる以前、1986年(昭和61)にクレパス誕生60年を記念して600色が作られていました。この600色を作ったとき、すでに697色まで試作されていました。この試作に新たな5色を加えて702色にしました。700色でなく実際は702色あったのは、展示ケースのサイズの都合でさらに2本を加えたからでした。

2012年(平成24)の新700色は、それ以前にあった600色と旧700色を基本にして増色させたものであり、サクラクレパス中央研究所の“色の職人”たちが先人の研究を継承し発展させた結果でした。また、700色につけた色名も歴史を尊重したものであり、色に関わる仕事をする専門家たちがその色をイメージできる色名であることを心がけています。

イエロー系

オレンジ系

レッド系

バイオレット系

ブルー系

グリーン系

ブラウン系(焦げ茶)

ブラウン系(黄土色)

ブラウン系(赤茶色)

文責サクラアートミュージアム主任学芸員 清水靖子

クレパス700色

専用ケース付きで販売しております。

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