SAKURA PRESS

「画材の使い方」アクリル絵具事典

2019.10.01

特集

アクリル絵具は1950年代に発明されて以来、15世紀からの長い歴史ある油絵具とともに、今日の代表的な描画材料になりつつあります。アクリル絵具というのは、いくつかある合成樹脂絵具のうちの一つですが、ビニル系樹脂絵具やアルキド系樹脂絵具などの合成樹脂絵具をしのいで、このアクリル系樹脂絵具が圧巻するようになりました。現在では合成樹脂絵具といえば、一般にアクリル系もしくはアクリル・酢ビ共重合体系の絵具のこと、つまりアクリル絵具を指すようになってきています。

アクリル絵の具の組成

合成樹脂絵具の系譜

合成樹脂絵具の開発は、すでに古い歴史がある油絵具の長所を生かしながら、その多々ある長所を技術の発展とともに、天然の乾性油を合成樹脂で代替えするなど、より耐久性の大きい優れた性質を持つ絵具を求めてのことでした。

合成樹脂絵具の開発史の中で、サクラクレパスではハイドリックカラーという合成樹脂絵具を1953年に開発していました。この絵具は、後にアクリルカラーと呼ばれるアクリル絵具が開発される上で重要な意味を持っていました。さらに、ハイドリックカラーからアクリルカラーの開発に至る間には、もう一段階のステップがあり、それはフォーブカラーという合成樹脂絵具の開発があったのです。

ハイドリックカラーの開発目的は、水性絵具であり、乾燥が早く、油絵具のように厚塗りや盛り上げのテクニックが可能で、ワニスなどにより油絵のような描画効果が得られ、完全に固化した後には耐水性のある画面になることでした。

そして1953年(昭和28)に開発されたハイドリックカラーのメディウムは、油溶性樹脂を水に可溶化させたものに水溶性樹脂を添加したものでした。セールスポイントとしては、油絵具では溶き油に相当するものを、ハイドリックカラーでは水なので簡便に扱えること、さらに画面の耐久性も油絵具に匹敵するものでした。

当時としては画期的な絵具にあったにもかかわらず、最大の欠点としてアンモニア臭気があるのが不評で、広く一般に使用されるまでには至りませんでした。しかしながら、この絵具の発想は絵具を水で溶くことができ、乾燥後は耐水性になるという点において評価され、それがやがてアクリル絵具の開発に導かれることになったのでした。ハイドリックカラーの後にメディムを改良して、ゴム系樹脂エマルジョンにしたフォーブカラーと呼ばれる絵具が1968年(昭和43)に開発されました

ハイドリックカラーと同様にフォーブカラーは粘性が高く、筆のタッチは油絵具のようなストロークを残しました。その粘性は、後のアクリル絵具より高いほどでした。しかし、日本国内でもアクリル絵具が普及し始めてきた時期であり、それに応じて国産アクリル絵具の製造を始めるメーカーが次々と出てきた時期でもあったので、フォーブカラーが一般に広く普及することなく姿を消すことになりました。その後、メディウムをアクリル樹脂エマルジョンにしたヌーベルアクリルカラーと呼ばれるアクリル絵具を1985年(昭和58)に開発しました。

合成樹脂系絵具の各社からの市販開始は、1956年のルフラン・ブルジョア(仏)のフラッシュ=ビニル絵具、1957年のラスコー(スイス)のアクリル絵具、1958年のビニー&スミス(米)のリキテックス=アクリル絵具、1962年のラウニー(英)のクリラ=アクリル絵具、1965年のターレンス(蘭)のレンブラント=アクリル絵具、1967年のマツダ(日)のアクリルカラー、1970年のターナー(日)のアクリルカラー、1971年のホルベイン(日)のアクリラ、1980年のニッカー(日)のアクリックス、1982年のウィンザー&ニュートン(英)のアクリル絵具です。

アクリル絵具の特長

水で溶く

アクリル絵具は水で溶いて描画しますが、絵具が乾くと水に溶けないようになる性質なので、耐水性が必要とされる画面に適しています。また、水で薄めていくと水彩絵具のような効果を得ることができ、またエアブラシにも用います。

早く乾く

油絵具が酸素を吸収して結合するという化学的変化によって固化するのとは違って、アクリル絵具は水分が蒸発することで固化するため、乾燥に要する時間は少なく、手早く塗り重ねていけるので、大きな画面を制作する場合や、現代のようなスピード時代に歓迎される絵具です。

ひび割れしない

可塑性のあるアクリル樹脂がメディムとなっているため、アクリル絵具の塗膜は柔軟性に富み、ひび割れがしにくいという特性があります。厚塗りした画面であっても、キャンバスを木枠からはずして巻いたり、折り曲げても、ひび割れることはありません。

アクリル絵具の課題

痩せる

アクリル絵具は水分が蒸発して乾くので、乾いた画面は描画している時より体積が減ってしまうため痩せたように見えます。地塗りや、下塗りの段階で厚みを作っておくなどの工夫が必要です。

色がしずむ

アクリル絵具は濡れている時の「濡れ色」と、乾いた後の「乾き色」に差があります。塗れている時には鮮やかに見えていた色でも、乾くと少し暗くしずんだ色合いになります。その差は色によって異なりますので、あらかじめそれぞれの色の変化を知っておく必要があります。

厳寒に弱い

アクリル絵具には4℃以下の低温になると造膜ができなくなり、接着力も弱くなるという性質があります冬季には野外での使用は避けた方が良いわけです。アトリエなどの室内でも、夜間になると暖房を消して4℃以下の低温になる環境でアクリル絵具を保管する場合は、使用する前に室温を20℃程度に温めてしばらく置いておくともとに戻ります。

低温に弱いアクリル絵具は描くときに希釈剤として水を使いますが、水は0℃以下になれば凍ってしまいますし、低温で絵具が凍結すると変質してしまいます。そこで、このような変質を防ぐためにアクリル絵具には凍結安定剤としてグリコールが混ぜられています。

他メーカーとの併用はできるか

油絵具や水彩絵具と違って、アクリル絵具の場合は同じ合成樹脂絵具であってもメーカーが異なる絵具を併用して使うことができるのでしょうか。某社では「他社樹脂製品を混用すると少し粘りが増す傾向があります。両者ともアクリル絵具ですので基本的には混合が可能です。しかし絵具の粘土を調整する増粘剤が異なるため混合したときに粘りがでるので、これも水を少し加えると使用しやすくなります。従って他社樹脂製品の併用には何ら問題はありません。」と説明しています。

弊社のサクラクレパス中央研究所では「異なるメーカーの樹脂絵具を混合すると増粘するということは変化が起きているということなので、混ぜ合わせない方が良い。」としています。このように全く異なる見解があると迷うところですが、この違いは使用する目的や考え方でどちらかを選択すれば良いととらえて下さい。他社製品の絵具との混合による粘度の変化で使い勝手が悪いとか、長期にわたって作品に何らかの影響が出てくるのではないかとの懸念があるようであれば避けておいた方が良いのですが、アクリル絵具の歴史が100年にも満たない現状では、今後どのような結果になるかは時を経ないと結論が出ないというのが実状です。

現代絵画を表現する絵具―絵具と塗料の違い

今日の絵画表現に使われる主な描画材料には、古くから用いられてきた油絵具や水彩絵具、二十世紀に生まれたアクリル絵具などの合成樹脂絵具があります。しかし、近年では表現の独自性を追求するアーティストたちの中には、本来の用途から幅を広げて描画材料ではない、さまざまな材料を用いるようになっています。

とりわけアクリル絵具の登場によって、若い画家たちを従来の描画材料への概念から解放させて自由な発想をもたらし、絵具だけでなくペンキといった塗料の使用も躊躇なくさせました。そもそもアクリル絵具の歴史を振り返ると、塗料としての用途が先に開発された経緯もあるからでしょう。家庭用の塗料を絵画作品の制作に塗料を用いる場合や、絵具と塗料を併用する場合には、それらの組成や特性がどのようであるか、どのような使用が可能なのかを知っておく必要があるでしょう。

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