MY STYLE, MY PIGMA 09

漫画にピグマ

漫画家
惣領冬実

1982年にデビューし、主に少女向け漫画雑誌に多数の作品を発表。卓越した画力とドラマチックな恋愛描写で一躍人気に。代表作に『ボーイフレンド』、『MARS』など。2001年、活躍の場を青年漫画へ。連載中の『チェーザレ 破壊の創造者』では新鋭ダンテ研究者の原基晶を監修に迎え、日本だけでなくフランス、イタリアなどでもその美麗な作画と歴史に忠実な物語の世界観が高く評価されています。

「サインペンは線が死ぬ」を
覆した若手漫画家時代。

少女漫画でデビューし、数多くのヒット作を世に送り出すも、そのフィールドを飛び出して、現在は青年誌「モーニング」で、ルネッサンス期に活躍したイタリアの英雄、チェーザレ・ボルジアを主人公にした歴史大作「チェーザレ 破壊の創造者」を連載中の惣領冬実さん。世界中で翻訳版が出版され、国内外にファンを持つ人気漫画家、惣領さんとピグマの付き合いはすでに30年を超えました。
「はじめてピグマで描いたのは、1980年代。デビューして、数年目の頃でしたね」
まだ若手漫画家だった当時、アシスタントはおらず、すべての作画作業をひとりでこなしていました。「締め切りに追われる中、少しでも効率的に作業したい。インクが乾くのを待ったり、Gペンや丸ペンのメンテナンスをしながら描くのが本当に面倒で……。それで、編集者にサインペンで描いていいかと相談したら、即座に却下。なんでも、ある有名な先生が『サインペンは線が死ぬ』とおっしゃっていたそうで、それが業界の定説となっていました」
それでも高校時代にドイツ製のペンなどに触れてきた惣領さんは諦めません。なんと編集者に無断で、ピグマを使って描いた原稿を渡していたそう。
「だけど、3ヶ月経ってもまったく気がつかない(笑)!それからは、どんな方法を選んでも自由にやらせてもらえるようになりました」

数々の技法を生み出した、
ピグマとの30年。

それから30数年。「線が死ぬ」どころか、長く第一線でヒット作を生み出しつづける惣領さん。
「他のサインペンも使ってみましたが、残ったのがピグマ。描き味がなめらかで、原稿にペン先が引っかからないのに、インクがしっかり出るところが気に入っています」
ピグマと付き合う中で、オリジナルの技法もたくさん生まれてきました。「すべて我流でやっているから、何が普通で、何が独特なのかわかりませんが」と笑う惣領さんのデスクを拝見してみると、マスキングテープで分類されたピグマがずらり。
「これはペンのかすれ具合がわかるように。はっきりした線を描きたい時は新品に近いものを。影など、淡く描きたいときはかすれ度合いの異なるペンを使って表現します」
また、陰影の表現でユニークなのが、サインペンなのに消しゴムを利用すること。
「きっかけは事故みたいなもの。あ、失敗した!と思って消しゴムをかけてみたら、線がうまく馴染んで、グラデーションを表現したようになったんです」
そんな楽しいお話を聞きながら、作業される手元を見つめていると、表面的だった登場人物たちがみるみるうちに立体的に。今にも動いて語りかけてきそうな、不思議な気持ちになりました。

「何で」描くかではなく、
「何を」描くか。

「基本的に面倒臭がり」と自嘲する惣領さんですが、作品づくりに手抜きは一切ありません。その理由はやはり、世界中にいる読者たちにあると話します。
「イタリアの女の子から、メールをもらったこともあります。やっぱり嬉しいし、責任も感じますよね。背景や衣装の細部まで丁寧に描きこむことで世界観ができて、より楽しく読んでもらえますから。面倒だけど、やるしかない(笑)」
現在、「チェーザレ 破壊の創造者」に取り組む惣領さんに欠かせないのが、4名のアシスタントさんの存在です。
「テキスタイル、自然物、装飾、トーンワーク。それぞれ得意分野を持った人たちが偶然集まった。この人たちがいなければ、チェーザレはできませんでした」
ちなみにアシスタントの皆さんが使うのもピグマ。当然、惣領さんからの指示かと思いきや違うそうで。
「アシスタントが何を使うかは、本人たちに任せています。だから、何を使っているのか全然知らなかったんですけど、どうやらみんなピグマのようで。驚きましたね(笑)」
アシスタントのおひとりはその理由を「どこでも手に入るし、品質が安定しているから」と話してくれました。
「重要なのは何で描くかじゃない。何を描くか。漫画だって、何で描いたっていい訳です。王道のGペンや丸ペンはもちろん、中には割り箸で描く漫画家さんもいる。今ではデジタルだって珍しくない。道具にこだわるのではなく中身にこだわる。自分らしいスタイルでやればいいんです。その中で私にはピグマがあっていたんだと思います」

惣領 冬実さんのピグマは……

「ピグマ003/005/01」

3種類のピグマを使い分ける惣領冬実さん。「長時間、繊細に手を動かす私には、この軽さもちょうどいいですね」。